コンテンツマーケティングで陥りがちな落とし穴

Mike Straus

Mike Strausはカナダのフリーランス・コピーライターで、中小企業のためのオンラインマーケティングソリューションを創造するコンテンツマーケティングスペシャリストで、受賞歴もあります。

この記事はThe UX Boothからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。

Content Marketing: You’re Doing it Wrong

昨年、私のクライアントがB2Bのコンテンツマーケティング案件を持ってVelocity Partnersに来訪しました。既存ユーザー向けの素晴らしい(そして無料の)ソフトのマーケティング案件です。Velocity Partnersはソフトの解説としてeBookを2冊作成し、クライアントのサイトでビジュアル広告を流し、クライアントのリストに営業メールを送り、評価基準としてソフトのダウンロード数を調べました。驚いたことに、eBookの成果は(広告やDMなどの)ダイレクトマーケティングに比べて標準を下回るものだったのです。コンテンツマーケティングは失敗に終わりました。

販売キャンペーンに投資して失敗するというのは、特別珍しい話ではありません。Velocityのコンテンツマーケティングは失敗しました。なぜでしょうか。クリエイティブディレクターのDoug Kesslerによると、「クライアントのソフトは素晴らしく、それ自体がコンテンツでした。私達の失敗は、コンテンツの宣伝に、さらにコンテンツを加えることしか考えていなかったことです。もし、コンテンツを増やせばいいだけなら、コンテンツマーケティングは世界で一番タチの悪いポンジ・スキーム(出資金詐欺)にすぎません。」とのことでした。

コンテンツマーケティングとは何か、何が大事か

コンテンツマーケティング分野はWeb2.0の誕生以来、急速な成長を遂げ、とどまることを知りません。コンテンツマーケティングは、ブログやeBookのように、有益で面白いコンテンツを通して利用者の関心を惹き、ビジネスにつなげるものです。好ましい検索結果を維持するにはクオリティの高いコンテンツが重要で、従来のセールス効果がなくなるに従い、コンテンツマーケティングが新しい可能性の手がかりとして非常に効果的なメソッドとなっています。

コンテンツマーケティングは、役立つ、カスタマイズされた情報を集めたニッチ市場を提供することで顧客を引き込みます。テレビ広告のようなスタイルよりも、はるかに効果的な方法です。加えて、コンテンツマーケティングは、サイト来訪者に貴重で記憶に残るエクスペリエンスをも提供します。B2Bのセールス会社Lattice EnginesのAmanda Maksymiwが言うには「従来の宣伝広告は見込み客に大声で叫ぶようなものでしたが、コンテンツマーケティングは客と会話をするようなものです」とのこと。Maksymiwは、コンテンツマーケティングが売り上げの拡大につながり、ホームページのトラフィックを激増させ、ブランドをその分野のオピニオン・リーダーに位置づけてくれると言います。

しかし、コンテンツマーケティングは、マーケティングの一形態であり、いつでも簡単に効果が挙げられるというものではありません。この記事では、利用者を遠ざけ、予算を台無しにするコンテンツマーケティングの失敗例を見ていきます。商売っ気むき出しのコンテンツや、まとまりのないもの、全く役に立たないものなどがあります。

「私の話を聞いて!」

コンテンツマーケティングでの最初のステップは、独り言から脱却して会話をすることであり、それによってよくある「宣伝」の問題点を避けられます。商売っ気むき出しのコンテンツは、クライアントとの関係を築くことがなく、また相手に営業メッセージというプレッシャーを与えない分、逆にクライアントを騙す形になってしまう可能性があります。
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ビジネスの執筆家Daniel H. Pinkが7,000人のアメリカ人に、営業マンを一言で表現すると何かを問いました。一番多かった言葉は「pushy(押しつけがましい)」です。他には、「dishonest(不誠実)」、「annoying(いらいらさせる)」「manipulative(操ろうとする)」などがありました。コンテンツマーケティングが成功するのは、貴重な情報を役立つものとして伝えるからであり、押しつけがましくしたり客を操ろうとするような罠に陥ってはいけません。

セールストークの何がいけないのでしょうか。一言で言えば、乱用されていることです。従来の宣伝広告のサイクルは、「このプロダクトが主役(すばらしい)」というようなフレーズをずっと使ってきており、過去百年に渡って広告業界の主要戦略でした。しかし、成長するマーケットでは、何千ものビジネスが、我がプロダクトこそが主役と主張しており、消費者はもうどうでもよくなっています。消費者はプロダクトやサービスには興味がないのです。消費者が興味を持っているのは、問題や解決法です。優れたコンテンツマーケティングとは、プロダクトではなく、ソリューションに焦点を合わせているのです。

このソリューション中心のコンテンツへのニーズについては、Ayal Steinerがよく理解しています。Steinerは、ネットユーザーがビジネスや出版社から役立つ面白いコンテンツを見つける手助けをするコンテンツ発見プラットフォーム、Outbrain Australiaのジェネラル・マネージャーです。Outbrainは多くの企業ホストからコンテンツを受け入れていますが、Steiner曰く「あまりにも商売っ気がありすぎる」という理由でコンテンツの約7割は却下しているそうです。

コンテンツの却下は、何も顧客のためばかりではありません。Kentico Softwareの最近の研究によると、商売っ気のありすぎるコンテンツマーケティングは12%~50%近くの割合で顧客の信用を落とすことがわかりました。

Outbrainは企業からコンテンツを受け入れ、ロイターやウォールストリートジャーナルなどの出版社に送り、ビジネスの可視化に貢献しています。個人リンクやおすすめ表示を使って、Outbrainは幅広い利用者に役立つ情報を提供することができます。厳しいコンテンツ用ガイドラインを設けており、単なる販売促進だけではない「明らかに役立つ情報とエンターテイメント性」があるものに限り、商売っ気のありすぎるコンテンツを受け入れないようにしています。その結果、企業利益に利用されないようコンテンツを守っているのです。

Velocity Partnersの件に話を戻すと、Kesslerは主な失敗の原因は、利用者の気づきという点が不足していたことだと言っています。Kesslerによると、問題は「ハンマーを手にした人は見るもの全てが釘に見える」であり、Velocity Partnersが利用者の視点からキャンペーンを進め、利用者が欲しがっているソリューションを創造すれば、失敗を防ぐこともできたのです。

多重人格障害のようなコンテンツ

コンテンツを創るのは簡単です。特定の人間の声で、人を納得させ、引き込むようなコンテンツを創ることこそが、難しいのです。コンテンツマーケティングのキャンペーンは、貴重な情報を伝えるだけでなく、企業のブランドイメージを伝えることでもあります。コンテンツ制作をスピードアップしようと、「全員がブログ投稿する」という方策をとった企業がありますが、その結果は例によって、まとまりのない、ブランド意識もなく、紛らわしいコンテンツを生み出します。何を持ってクオリティの高いコンテンツとするかという概念は人によって違いますし、流儀も人それぞれです。会社ぐるみのコンテンツ作りは、全く異なる声を一斉に聞かせることとなるのです。

コンテンツのキュレーション業界では、これは大した問題ではありません。しかし、一貫したブランドイメージを創り上げたい企業には、新しい幹部職として、チーフ・コンテンツ・オフィサー(コンテンツ最高責任者、以下CCO)が必要になるかもしれません。DELLやIntel、Netflix、コカコーラなどの企業は、最近CCOを雇って、コンテンツマーケティング戦略を監督し、コンテンツ全てで統一性のある一貫したスタイルを維持しています。

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TIME誌は更にまとまりのあるビジョンとクリエイティブな環境を求めてCCOを雇用し、長期的な成長が維持できると期待しています。Content Marketing Instituteは、CCO季刊誌を発行してこのトレンドを利用しています。CCOはコンテンツマーケティングの成長と今後の進化に伴い、ますます重要になってきます。

KesslerとVelocity Partnersは、このコンテンツの統一感というニーズに気付き、「チームというものは散発的には協力してもシステム的に協力することはほとんどありません。コンテンツ力とその重要性は、マーケティングチームの協調を余儀なくさせています」と言っています。

新しく人を雇用しなくても、他の方法でブランドの統一感という同じゴールに到達することは可能です。例えば、既存のスタッフを一人か二人選んで、コンテンツマーケティング戦略の責任者にすることもあるでしょう。あるいは、現在の文章のトーンがどんなものか、どんな語彙を使うか、話題は何かなどを要約したガイドラインを設定し、コンテンツクリエイターに統一したトーンで書かせることもできます。

猫さえ映っていればOK?

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結果を伴うコンテンツ制作には、綿密なプラン立案が欠かせません。最近、コンテンツマーケティング業界の急成長で「コンテンツは王様」というスローガンがあちこちで叫ばれています。このフレーズは、1996年に書かれたBill Gatesの同名タイトル記事から来ており、今日では、サイトのトラフィック増大におけるコンテンツマーケティングの重要性を述べるのに使われています。しかし、多くの企業がこのフレーズを「コンテンツのためのコンテンツ」と誤解しているようです。

コンテンツ制作を目的と見る企業は、間違った思い込みを二つしています。

1. コンテンツは全て同じように創られる

2. コンテンツらしきものがあるだけでセールスを伸ばせる

どちらも真実であるわけがなく、実際にネット上での企業イメージを傷つける可能性があります。コンテンツ創造それ自体を優先すると、ブランドにそぐわない、目的もまとまりもないコンテンツになってしまいます。例えばFacebookは自身のコンテンツ制作プラットフォーム、Facebook Storiesプロジェクトをやっていますが、これは、ちょっと変わったFacebookの使い方をしている人達の話を投稿するコミュニティブログです。

こうした投稿記事は話題も流儀も、あまりにも多岐にわたっており、このサイトが何をもたらすのか見定めることができませんし、問題点は検索エンジンのランキングでも顕著です。Facebookのメインページは、世界で2番目に訪問者が多く、来訪者一人につき平均一日15回のページビューがあります。これを書いている現在の時点で、Facebook Storiesのトラフィックランキングは178,227番目で、来訪者一人あたりのページビューも2回に過ぎません。

このデータでわかるのは、Facebook Storiesプロジェクトの妨げになっているのは、Facebookが要領を得ていないからであり、優れたコンテンツマーケティングが単なるコンテンツ制作以上の役割を担う理由というものを立証していると言えるでしょう。コンテンツマーケティングの力を活用するためには、企業は的を射たコンテンツへのポリシーを持たなければなりません。理想的なコンテンツマーケティングのプランとは、具体的な目標と、明確に定められた話題とが必要なのです。

例えば、Content Marketing Institute(以下、CMI)は、コンテンツマーケティング戦略のシステム化と目標指向型意識のために、編集用カレンダーのテンプレートを作っています。CMIは8万人の購読者を教育するという目標を掲げ、このテンプレートをロードマップとして使用しています。CMIのコンテンツは話題から外れることなく、非常に核心を突いた、目標指向型になっています。

Velocity Partnersは「コンテンツが目的」という考え方が、ありきたりの「あるある」コンテンツという流れを生むのではないかと危惧しています。そういったコンテンツは利用者の気を散らし、うざったく思わせるからです。Kesslerはまた、「ポスト大氾濫時代の勝者」とは、真に価値のあるものを創れる企業だと言っています。

次のステップ

コンテンツマーケティングに興味がある事業主は、包括的プランを作るところから始めるとよいでしょう。コンテンツマーケティングのプランには幾つかの構成要素があり、その全てが一緒に作用して初めてコンテンツマーケティングの成功につながるのです。

・トピックリスト

コンテンツのポイントを外さず、アイデアの一般化を容易にし、「商売っ気」の問題を避けられます。コンテンツマーケティング編集の本質とは、利用者にアピールする話題を選ぶことです。企業は、利用者の視点でコンテンツ戦略に取り組み、リストを作る際に自分自身に次のことを問わねばなりません。
「利用者の、購入決定を妨げる疑問とは何なのか。」
「このトピックはセールストークになっているか、それとも問題や解決の説明になっているか。」

・ゴール設定

コンテンツマーケティングのプランを、結果重視のアプローチを維持するために必要です。ビジネスによっては、主目的がオンライン・セミナーの参加者を増やすことかもしれませんし、新しい手がかりを生み出すことかもしれません。ゴール設定のために、現在抱えている問題点を分析し、コンテンツマーケティングによってどう解決することができるかをブレインストーミングすると良いでしょう。「コンテンツマーケティングによって何を得たいか」ということを考えてみましょう。

・スタイルのガイドライン

意図に沿ったクオリティの高いコンテンツを創るのに役立ち、途切れのない編集プロセスを生みます。MailChimpは、綿密なガイドラインを打ちたて、ライター達に何を求めているかを明確にして、ブランドに沿ったコンテンツをキープしていることで有名です。カテゴリーには、どんな文章を使うのか、どんな書式を使うか、どんなデバイスを使って書くともっと身近に感じるのかなどがあります。コンテンツのガイドラインは、より大きな開発チームを必要とする組織にとって、コンテンツマーケティングをブランドに沿ったものに維持するために重要なものです。


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