世の中にまだない体験をつくる、テクノスポーツ「HADO」のデザインとは

UX MILK編集部

モノづくりのヒントになるような記事をお届けします。

突然ですが、この動画を見たことはありますか? SNSで話題になったので、見覚えがある方もいるのでないでしょうか。

今回は、この動画で紹介されている「HADO(ハドー)」を手がける株式会社meleap(メリープ)の本木さんに、スポーツとテクノロジーを融合させたテクノスポーツのデザインについてインタビューをしてきました。

世界でも類を見ないテクノスポーツ

株式会社meleap 取締役 本木 卓磨 氏

── まず、最初にmeleapさんがどのような事業を展開しているのかお聞きしても良いでしょうか。

本木:meleapは、テクノスポーツを展開する企業です。現在は、主にHADOをメインのコンテンツとして開発しています。

HADOは、ゲームとして見られることが多いのですが、我々は新しいスポーツのジャンルである「テクノスポーツ」として開発をしています。テクノスポーツとは、テクノロジーを組み込むことを前提に作られたスポーツです。

最近ではサッカーや野球などの既存スポーツにもテクノロジーが導入されていますが、あくまで補助的に使われているだけであって、テクノロジーがあることを前提としていないという点でテクノスポーツとは異なります。

── 今回初めてテクノスポーツという言葉を聞いたのですが、HADO以外にも似たようなものはあるのですか?

本木:VRを使った体を動かすゲームなどはあるのですが、スポーツというアプローチをしているところは知る限りではないです。

テクノスポーツは、まだ世の中に浸透していません。そのため、まずは文化としてテクノスポーツを社会に普及させたいと考えていて、現在はテクノスポーツの第一弾競技であるHADOのプレイヤーを増やすことに注力しています。HADOを導入いただいている店舗も増えており、いまは世界15カ国48箇所以上の店舗にHADOを導入いただいています。

さらに将来的には、観客を増やしてスポンサーを集めてそのお金をプレイヤーに還元するというプロスポーツビジネスを展開したいと考えています。

── プロスポーツ化を目指しているのは、ほかのVRゲームとは大きく違いそうですね。具体的に、HADOはどんなスポーツなのですか?

イメージとしては3対3で行う、無限に弾が撃てるドッジボールを想像して頂ければと思います。まず準備として、頭にヘッドマウントディスプレイ、腕にはモーションセンサーを装着します。試合では、腕を前に突き出すことで相手にエナジーボールを撃つことができます。エナジーボールが相手の身体の前に表示されているライフをすべて破壊すると1点が加算されます。エナジーボールは身体を使って避けるか、シールドを張ることで防御することができます。

80秒の制限時間で多くの点数を獲得したチームが勝利となります。

── HADOで使うのはVRですか? ARですか?

本木:ヘッドマウントディスプレイをつけるので、VRと同じものだと思われることがよくありますがVRとは異なります。

VRはフルCGで作られた空間に入り込むという形式ですが、HADOの場合ARなので、現実空間の上にCGが重なって表示されます。あくまでも舞台は現実空間という点がVRとは異なる点です。

テクノスポーツのデザイン

── 世の中にまったく存在しないものを作るとなると、やはり苦労は多かったのでしょうか?

本木:苦労した点はさまざまですね。一般的なゲームは四角い画面上にUIを置きますが、まずその概念が通じない。ヘッドマウントディスプレイを被るので、プレイヤーは真ん中しか見ていなくて、真ん中から外れていくほどボヤけて見える感じになります。

そのため、UIをなるべく中央寄せにして、画面の真ん中から同心円状に広がるようにデザインしなければなりません。

いままでのデザインの概念が通用しないので、かなり苦労しましたね。

HADOを装着したときのイメージ

── 参考にできる事例も少なそうですし、そもそもの情報設計の考え方からして違いそうですね。

本木:情報設計に関しては、「絶対に必要な情報」と「上級者が見れたらいい情報」というように、情報に格差をつけて表示しています。たとえば、エナジーボールを当てられたときはプレイヤーに気づいてもらう必要があるので、大きくわかりやすい形で表示します。

一方で、シールドの耐久度は必ず見てもらう必要はないけど、見てもらうことによってプレイが上達するような情報です。こういった情報は、シールドの色を薄くしたり、ノイズが走る演出を入れることで、初心者の人にとっては邪魔にならないように表示しています。

また、現実世界で動くスポーツなので、UIで視界を遮ってしまわないように気を付けています。激しく動いてプレイするので、視界がふさがってしまうとビックリしたり、怖いと感じたりしてしまいます。そのため、どのタイミングでなにを表示するかも大事です。

── ほかにデザインにおいて気を付けている点はありますか?

本木:情報はなるべく少なくして、シンプルなUIを心がけています。プレイヤーにとっては、ARはまったくの新しい体験なので、UIの情報量が多すぎるとパニック状態になり、内容を理解してくれません。ですので、極力シンプルなUIが必要です。

実際に、プレイヤーに情報を伝えきれないので、仕様そのものを変更したこともあります。「HADO MONSTER BATTLE」というコンテンツでは、元々自分の体力をヒットポイント制にしていたのですが、なかなか理解されなかったため、敵の攻撃が当たると1回でやられてしまい、数秒後にまた復活する仕様に変更しました。

まだまだ技術的に難しい点も多く苦労はあるのですが、技術の進歩によってさまざまな演出や機能が追加できるようになっていくという面白さもありますね。

── HADOでは腕にモーションセンサーを付けていますが、このディスプレイはなんのためにあるのですか?

本木:腕のモーションセンサーはプレイ中はあまり見ないので、ディスプレイが付いている必要もないのですが、ユーザー体験と世界観を重視してディスプレイ付きにしています。

腕に装着するモーションセンサーではパラメータを設定可能

HADOでは能力のパラメータを腕のディスプレイを使って事前に設定し、チームで作戦を立ててプレイをします。このとき、みんなで腕のディスプレイに表示されたパラメータを見せ合うことで、コミュニケーションを生まれやすくするという狙いがあります。あとは、デバイスを腕につけて操作するという行為が格好良いからですね(笑)

── プレイ中だけではなくてプレイ前後の体験も考慮しているのですね。HADOは世界展開をされているということですが、国によって体験の違いはありますか?

本木:ありますね。国民性の違いがあるので、それを考慮して体験を設計しなければなりません。

たとえば、USに子会社があるのですが、アメリカは全然はずかしがらずにプレイしてとても盛り上がるのですが、うまくなろうみたいな意識はない人が多い。パラメータをうまく振って戦略を考えてプレイするということはあまりしません。

一方で、日本を含めたアジアの一部の地域は周りの目を気にして、思い切って全力プレイができないシャイな部分があったりします。けれど、うまくなろうという意識が強くて、戦略もしっかり考える傾向があります。

こういった国民性によるプレイスタイルや体験の違いも考慮するのは、難しいですが面白くもありますね。

テクノスポーツが普通になる未来

── 次に、デザインではなくビジネスや仕事としてのテクノスポーツの楽しさや魅力をお聞きしたいなと思うのですが。

本木:世の中にない新しい文化をゼロから作るという点が一番の魅力です。

将来、スポーツとテクノロジーの融合は絶対に普通になると思うんです。それが10年後なのか、100年後なのかはわからないですが、誰もが公園や体育館でホログラムを使ったスポーツをするという未来は想像できると思うんです。

テクノスポーツは、技術の進化と共に必ずやってくる。その未来を自分たちが作り出しているという楽しさ、やりがいは非常に大きいです。

── SFの世界みたいでワクワクしますよね。もう少し直近でいうと今後どのように盛り上がっていきそうですか?

本木:まずはビジネスとして成功しないと文化というところまでは行き着きません。現在はプレイヤーを増やすために世界各国の店舗にHADOを導入してもらったり、世界大会や体験会を開催したりしています。

プレイヤーが増えてきたら、観客が見て面白いスポーツにする必要があると思っています。テクノスポーツだからできる観客の体験を作っていきたいです。たとえば、応援がプレイヤーの画面上で形になったりとか、競技内にも反映されたりなど。既存のスポーツではできないことに挑戦したいです。

── プロスポーツ化のためには観客も大事ですよね。いま一番課題だと思っていることはありますか?

本木:HADOの体験において、改善できる点はたくさんあります。この体験には、HADOのプレイ前後や観客の体験も含まれます。

たとえば、プレイ前後のコミュニケーションや観客を盛り上げる演出、応援の方法などデザインで解決できる点はあると思います。

プレイヤーや観客全体の熱量を上げるには、デザインの力が不可欠だと思っています。

テクノスポーツというシーン全体を作っていくことになるので、デザインが果たせる役割は本当に無限にあります

── テクノスポーツにおいてデザイナーが貢献できる部分は大きそうですね、本日はありがとうございました!

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インタビューで登場したHADOを体験できるイベント「UX MILK Workstyle 14 feat. meleap」が9月5日(水)に開催されます。

現場の方々との交流や、実際にHADOを体験しながらデザイナーとしてどんな改善ができるかディスカッションなども交える予定ですので、興味のある方はぜひご応募ください。

イベントは終了しました

提供:株式会社meleap
企画制作:UX MILK編集部


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