Webサイトの専門家でもユーザーテストが必要な理由とは?

池田 朋弘

UXリサーチを専業とする株式会社ポップインサイト代表取締役および株式会社メンバーズ執行役員。2008年に株式会社ビービットに入社しユーザーテストを数百人実施、2012年に日本初のリモートユーザーテストサービスを立ち上げ5,000調査以上を実施。

UX MILK特派員のポップインサイト池田です。今回からUXの第一線で活躍されている方々へのインタビュー&対談し、最新のノウハウをお届けする「UXリサーチ最前線」という連載企画をスタートします。

第一弾では、BtoB領域におけるWeb制作やUX改善で有名な株式会社ベイジ枌谷さんに、お話を伺ってきました。

UXアプローチやUXリサーチは課題解決の手段

枌谷:ベイジはBtoB領域に強みを持つ、現在10年目のWeb制作会社です。自社内のチームで、マーケ戦略策定からデザイン、制作までを一貫して実施できることが特長です。

BtoBサイト改善実績は多くありますが、最近では自社のWebサイトを改善した結果、年間のお問合せ件数が2017年は400件以上となり、社員数15人の当社では受けきれないほどの反響を頂いてます。

池田:400件は凄いですね。枌谷さんはSEOで有名なナイル株式会社さんの「UX顧問」に就任されていたり、また普段のTwitterでの投稿からも「UXデザインに非常に強い」という印象があります。

枌谷:実は「UX」という言葉はそんなに積極的には使っていません。デザイン会社や制作会社はみんな「UX考えてます」って言いますし、市場も我々がUXに詳しいのは当たり前と思ってそうですし、マーケティング的に差別化できるメッセージにはなりづらいと感じています。

クライアントが実際に欲しているのは「UXを良くすること」ではなく「ビジネス成果を出すこと」「ビジネスの課題を解決すること」ですので、UX改善はあくまで手段だと思っています。

池田:その考え方は私も非常に共感できます。ポップインサイトでは月間数百件のユーザテストを実施していますが、常々「ユーザーテストは課題発見の一手段であり、他に手法があるならそっちもやりましょう」とよく話しています。

「ペルソナ作り」と「ターゲティング」を混同しない

池田:ベイジさんのWeb制作のプロジェクトにおいて、どのようなシーンでUXリサーチ(ユーザーテスト)を実施しているのでしょうか?

枌谷:ベイジでは、戦略策定から制作までのワークフローをしっかりと定義しています。ユーザーテストは戦略フェーズで実施するのですが、まずクライアントヒアリングによりビジネス要件やターゲットを整理し、その後にワークショップでペルソナを策定した上で、ユーザテストを実施しています。

池田:プロセスが非常にしっかり固まっており、とても参考になります。ユーザーテストの前にペルソナ策定をするのはなぜですか?

枌谷:ペルソナを決めてからの方が「どんなユーザーを被験者にするか」をスムーズに決められるからです。

池田:当社だとペルソナを作るための材料としてユーザーリサーチやインタビューをワークショップの先に実施するケースもあるのですが、リサーチ前にワークショップをして、ペルソナが決めきれない、ということはないのでしょうか?

枌谷:ペルソナを決める目的を事前にちゃんと伝えることが大事で、それがあれば決められないことはありません。よくある誤解は「ペルソナを決める」ことと「ターゲットを絞る」ことを混同しているケースです。

ペルソナは「典型的なターゲット」を具体的に定義することで、その後の議論をしやすくことが目的で、必ずしもそれ以外のユーザーを対象外としたいわけではありません。もし最初に決めたペルソナ以外にも考慮すべきユーザがいたら、後から別途考慮したらいいだけです。

この目的をしっかり伝えておくことで、必ずしもこの時点で明確な根拠がなくてもペルソナを決めることは可能です。

ユーザーテストは2人~4人でも十分意味がある

池田:確かにペルソナ策定とターゲティングを混同してしまい「ペルソナ以外のユーザーはどうするのか?」という議論になってしまうことはありますね。

ペルソナを決めた後のユーザーテストは、全てのプロジェクトで実施しているんですか?

枌谷:はい、基本的には全ての案件で実施しています。ワークショップの議論で決めたペルソナは、思い込みで作ってしまっていたり、企業にとって都合のよいペルソナになってしまっていることも多く、ユーザーテストをすることで現実感のあるペルソナに修正できます。

ただ、そもそもWebサイトがまだなかったり、現行サイトがあまりにも質が低い場合には、ユーザーテストを省略する場合はあります。

池田:まずはワークショップで「えいや」と決めつつ、その後にユーザーテストを行って修正していくというのは合理的でよいですね。

Webサイトがない場合は、サイトの操作はせずにインタビューで過去の経験などを聞くだけでも十分なインプットが得られるケースはありそうですね。

枌谷:確かにそれはそうですね。

池田:ユーザーテストを行う場合、何人ぐらいやっていますか?

枌谷:人~4人程度で実施する場合が多いです。BtoBサイトの場合、ペルソナに合う人がそもそも少ないので、クライアントの取引先の方を紹介してもらったり、なるべく近い属性の人を呼んでますね。

アイトラッキング等を使うような本格的なユーザテストではなく、1時間程度の軽めのものを行うことがほとんどです。

池田:「2人~4人だと少なすぎる」といった話がでることはありますか?

枌谷:当社の場合は、しっかりとプロセスや目的を伝えているので、人数が問題になることはないですね。

実際、3人目ぐらいからは似たような課題が出てくるケースが増えてきますし、人数が多すぎても費用対効果が下がるので、2人~4人がちょうどよい規模感だと思っています。

「専門家でもわからない」気づきを得るために

池田:ベイジさんのように「BtoBサイト」と強みをしっかりと絞られていると、「ユーザーテストは要らないんじゃない? 知見ベースで直してよ」と言うクライアントも多そうな気がしますが、どうですか?

枌谷:確かにBtoBサイトは改善項目が似ていて、社内では11コの頻出課題パターン等のノウハウも整理しています。ですが、BtoBといっても商材も顧客も違うし、専門家であっても分からないこともあります。

たとえば先日も、とあるデジタルマーケティング系企業のWebサイトでユーザーテストをやりました。すると「導入事例に有名企業のロゴばかり並ぶと、逆に信用しにくい。自分たちと近い規模の企業事例がないと相談しづらい」「導入事例とお客様の声が別々のページだと情報の納得感・信頼感が低いが、1つのページにまとまってて流れで読めると説得力・信頼感が増す」など、意外な気づきがありました。

もちろんユーザーテストの結果だけで課題を決めるわけではなく、過去知見や経験則を踏まえて課題定義はします。

池田:確かにポップインサイトでも数千調査以上のユーザーテストをやってますが、毎回新しい気付きがあり、今でもユーザーテストを見るのは面白いです。

枌谷:またユーザーテストをすることにより、お客さんの納得感が高まることも大事なポイントです。プロジェクトの最終ゴールはビジネス成果を出すことですが、戦略策定・デザイン・リリースをして成果を出すまでには当然時間がかかります。

ワークショップやユーザーテストで、プロジェクトの過程の納得感を高めることもプロジェクトを成功させるために重要です。

(次回に続く)

本日の学び

10年のご経験に裏打ちされ、戦略~制作まで確固たるメソッドをお持ちの枌谷さんだけあり、非常に様々な学びがありました。個人的に特に学びになった点をまとめます。

・ペルソナ作りとターゲティングは異なる! ペルソナを作ったからといって、ペルソナ以外を捨てるわけではない。
・ユーザーテストは2〜4人でも十分得られるものがある。
・プロジェクトを成功させるためには「プロジェクト過程の納得感」も大事にしよう! そのための手段としてユーザテストやワークショップはとても有効。

次回も、同じく枌谷さんに「業務用システムのUX」についてお話を伺います。お楽しみに!

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